ハハ、銀行に紛失届を出す
お金の管理ができなくなったハハの代わりにムスコが家計の管理をしている。
銀行のキャッシュカード、預金通帳、クレジットカードをムスコが保管している。
残酷かもしれないが、紛失(現金とカードの両方)と残金がゼロになるまで現金を引き出してしまうことが多発したため、ハハの財産を守る為そうしている。
ハハには現金を少しずつ渡すようにしているが、それも使った形跡はないのに財布からは消えている。財布そのものが消えてしまったことも一度や二度ではない。
ハハはそれが不満でならないし、手元に預金通帳がないので残金がいくらか見えないのが不安でたまらないし、ムスコが盗んで使い込んでいると思い込んでいる。
そのハハが、銀行に電話をして預金通帳とキャッシュカードの紛失届けを提出したらしい。ムスコがデイホームへの振込をしようとしたらできなくて、口座がストップされていることを知らされたというのだ。
わざわざムスコが銀行に出向き、無事に再開手続きができたし、それによって滞った支払い等もなかったようだ。
銀行の名前を覚えていて、電話番号を調べて電話をしたハハは何を考えていたのだろう?
紛失届を出せば預金通帳とキャッシュカードが再発行されて自分の手元に郵送されると思ったのだろうか?書留を受け取れる時間帯に家にはいない、銀行が開いている時間にはデイホームに行っている、ということは考えていなかっただろう。
太陽神戸銀行と郵便局の名しか口にすることがなかっったハハが、現在持っている銀行口座名を覚えていただけでも驚きである。しかも、紛失届が受理されるだけの会話が電話でできたのである。
ハハの認知症はそんなに酷くないのかもしれない、とも思ったりしたが、紛失届を提出したことはやっぱり覚えていないのだった。
ハハの認知症が進行しているんだったら、正月はどうする?
デイホームに行っていないと言うハハの混乱っぷりはムスメを混乱させた。
デイホームのお正月休みはどうすればよいのか?
ショートステイに連れて行く手間を考えると気が遠くなりそうだった。
ショートステイ先を探し、書類を提出し、荷造りをして、車で送迎、と書き出せばこれくらいですむが、実際にはハハに5秒ごとにお金を盗んだだろう、電話機盗んだだろう、貯金通帳は返してくれ、ヨメも孫も私を蔑ろにしているのは許せない、とか言われながらの作業である。それでなくても年末は殺人的な仕事量を抱える身に、これ以上の仕事をさせたくない、と思っていた。
最悪、ムスメが一時帰国するしかないと思っていた。チケットは最安値のほぼ倍だが、致し方ない。日本を離れた姉ができる唯一の弟孝行かもしれないとも思っていた。
が、ムスコはショートステイに行って規則正しい生活をした方がいいし、満腹中枢がおかしくなってきているから、三食温かいものが食べられる方がいいだろうと言っていた。
家にいても、デイホームに行っても、ショートステイに行ってもムスメが帰国してもハハは混乱するのだから、ショートステイに行くのが一番だとムスコは決めているようだった。
ムスメとしてはそれが一番ありがたい。
安い時期に帰りたいというのもあるが、東京の日常に帰りたい、というワガママもあるし、アメリカでの状況も考えると2月とか3月の帰国があちこちに無理が立たずにすむからだ。
ハハの認知症が進行しているのか? 電話編
デイホームに行っていない発言は一度だけだった。
デイホームに行きたくないと言う日はあっても、デイホームに行くお金がないから休むという日はあっても、デイホームに行っていないと言う日はまだない。
最近は、電話の子機が見つからなくて、ムスコが盗んで行ったと怒っていた。
親機の受話器もコードレス子機になるタイプの電話を使っているのだが、それが裏目に出た。子機が二つとも見つからないのだと言う。
電話がかかってくれば親機が鳴るのだが、子機が見つからないので電話がかかってくる度にムスコに対する怒りで気が狂いそうだとも言っていた。
技術の進歩(この場合はコードレスで家中どこへいても電話で話ができること)は必ずしも認知症のハハを幸せにはしない。皮肉なものである。
紛失したことを(この場合は子機二つ)ムスコのせいにするのは認知症の典型的な症状だろう。親機とつながっていない子機と親に泥棒と非難される子、どちらも接続も断絶されている。皮肉を超越している。
ハハの認知症が進行しているか?
ハハが脱水症状ではないかと心配していたが、昨日はちょっと様子がいつもと違っていた。
デイホームに毎日行っていることを忘れていたのだ。
ずっと家に一人でいて、テレビを見ているような気がすると言うのだ。
呂律はきちんとしているので、脱水症状で意識障害というレベルでもなさそうだが。
週に6日デイホームに通うようになってもう2年になるだろうか、夕飯を食べたことを忘れたことはあっても、デイホームに行ったことを忘れたことはなかった。
うーん、これは認知症が進行しているのだろうか?
でも、以前老人ホームに入居していた時、毎日部屋でテレビを見ることしかしていないから退屈でたまらないと言っていた。
老人ホームによれば、参加できるアクティビティには全て参加していたとのことだったが、結局これだったのではないだろうか。
参加したこと自体を忘れてしまえば、残るのはテレビを見ていて退屈だったということだけなのだろう。
それでなくても、ムスコがお金を盗みに来るという妄想から逃れられないのに、ムスコが自分の年金を使い果たしてしまうのではないかと不安でたまらないのに、ハハに平安が訪れることはあるのだろうか。
ハハ、脱水症状か?
ハハはしばらく安定していた。
この場合の安定していたというのは、ハハの不安や不満が解消されたという意味ではなくて、ハハの不安や不満に変化がなかったという意味である。
が、ここ数日は様子が少し違うかもしれない。
昨日は、寝起きの声で頭がフラフラして起きられない、と言う。
夕飯はちゃんと食べたのかと聞くと、そんなこと覚えてない、と言う。エアコンは相変わらず使っていないので、ともかく起きて水を飲み、冷蔵庫の中に入っている何かを食べるように言った。
デイホームに出掛ける時間に再度電話してみたが、電話に出なかったので、デイホームには行桁らしい。
今朝は、元気な声だったが、自宅にいるのか実家(10年以上前に取り壊されている)いるのか混乱していた。落ち着いて周囲を見渡せば、実家にいるということはまだ理解できるが、何度もここは自宅なのか実家なのかと確認していた。
デイホームからの夕食を食べずにそのままエアコンをつけずに寝てしまえば、脱水症状が起こってもおかしくないだろう。夏は食品の管理も困難だが、温度管理が冬以上に難しい。
この記事を目にしたばかりだった。
ハハのこの混乱が、軽い脱水症状なのか認知症の進行なのかは分からないけれど、なんとなく心配が続く。
ハハとエアコン
日曜日に電話をしたら、暑いと言っていた。室内の温度計が34度になっていると。
エアコンつければいいのに、と言ったのだが、リモコンが見つからないのだという。テレビのリモコンとごっちゃになってしまっているようだった。
それでも、運転と書いてるのがエアコン、BSと書いてあるのがテレビのリモコンだと理解できていたのでよしとしよう。
とりあえず食堂のエアコンのリモコンは見つかった。狭い家だ。食堂のエアコンをつけいれば、寝室も寒すぎることなく熱中症は防げるだろう。
エアコンなしで育った世代のハハはエアコンを使うことに抵抗がある。電気代がかさむのではないかと不安にもなる。
最近のエアコンはそんなに電気代かからないらしいよ、熱中症になった方が大変だからと説得を試みたが、果てして聞いてくれるかどうかは分からない。
寒い季節も大変だが、暑い季節も熱中症やら食中毒やら心配事は尽きない。
チチの一周忌
昨日はチチの一周忌だった。
ハハはデイホームではなくて、お寺に喪服を着ていく日だということは覚えていた(優秀!)が、ムスコが何時に迎えに来るのかを忘れてしまったので混乱していて不機嫌だった。
何も聞かされてない→ムスコが不親切→私は嫌われている→だから死んだほうがマシ
というループにハマってしまい、抜け出すのに苦労した。ムスコがこんな不機嫌なハハを車に乗せて運転しなければならないのだと思うと、とても申し訳なくムスメは思った。
ちなみにハハは何故お寺に行くのかは分かっていなかった。一周忌だと言っても、チチが亡くなったのが一年前だと信じられないようだった。ハハの中ではもう三年経ったらしい。それだけこの一年が長かったということなのだろう。
翌日に電話したが、一周忌に出かけたことは忘れていた。どこかに喪服を着て出掛けたことは覚えていたが、それが一周忌だったこと、誰が参加したのかなどは全く覚えていなかった。