ハハの電話攻撃にムスコがやられる
ハハの自殺未遂の一件以降、ムスコは母からの着信拒否を解除していた。
それ以来、電話とメールでお金を盗むのは止めるように、今すぐに預金通帳もキャッシュカードも返すように、泥棒、人殺しと責められた心優しいムスコにもついに限界がきた。もう耐えられない。預金通帳も全部返すと言ってきたのだ。失くしちゃったらその時にどうするか考える、と。
いやいやいやいや、それはダメでしょう。その場しのぎの対処にもならないでしょう、とムスメはアメリカの片田舎から叫ぶ。
おそらく、ハハは返してもらった通帳やキャッシュカードを紛失するだろう。もうこれでこの2が月の間に財布を二つ失くしている。デイホームに週6日通い(つまり、平日には1人で外出していない)、日曜日にはヘルパーが来ている(食事の準備をお願いしているのでハハがお金を使う機会がない)にも関わらず、財布は見つからない。よほど疑心暗鬼になって周到に隠し、隠した場所を忘れているに違いない。
だから、預金通帳にも同じことが言える。ムスコが泥棒だと思い込んでいるハハは預金通帳を隠そうとするだろう。そして、隠した場所を忘れてしまうだろう。もしかしたら、預金通帳を返してもらったことそすら忘れてしまうかもしれない。
紛失したら再発行の手続きに行かなければならないのはムスコ本人である。自分で自分の首をしめているようなものだ。
手元に預金通帳がないハハはムスコが盗んだとムスコを非難するだろう。
結局、現状は変化がなく、ハハの不安は増すばかりで、ムスコの仕事も増えるだけである。
ハハと話すことがどれだけストレスになるかはよく分かる。
ムスメが5分電話しているだけでも、イライラさせられる。これが日に幾度となく電話とメールで攻撃されたら、そりゃあ、精神を病むだろう。それは分かる。
だけど、これで預金通帳とキャッシュカードを返してハハが電話攻撃の手を緩めることはないだろう。ハハはムスコ夫婦が同居しない限り満足しないだろうから。
ここでも、ハハの味方になれないムスメであった。