ハハ、ここは退屈だと言う
ハハは日中電話に出ないので、朝食前を狙って電話をかけてみた。朝ごはんまで時間があるから本を読んでいるのだと言う。
機嫌は悪くなかったが、退屈だと言う。ご飯食べたらもうすることないじゃない、部屋に帰ってダラダラしているうちに1日が終わっちゃう、こんな生活していていいのかなと思うと言う。
ピアノ弾けるんでしょ?ピアノ教えてほしいって言われなかった?とムスメが話題を変えると、あんな年寄りのバカばっかりにピアノ教えたってしょうがない、一刀両断されてしまった。
ピアノ教室の道が閉ざされたら、別の方法を探さなければならない。何とかハハにここが楽しく過ごせる場所だと認識してもらわなければならないのだ。
退屈だって言うけどさ、デイホームも退屈だったって言ってなかったっけ?
そう言えばそうだったね。あそこも退屈と言えば退屈だったね、と至極真っ当な答えが帰ってきた。今日は頭がハッキリしている。
だったら、茶道教室でもやってみたら?お点前できなくてもさ、午後のおやつの時間にお抹茶たてたら喜ばれるんじゃない?
それはいい考えだね。道具を取りに家に一度帰りたいって相談してみる、と乗り気だった。
一度家に帰るというのは難しいと思うけど、とムスメは言おうと思ったが、黙っていた。私と話したことはきっと忘れてしまうだろう。だけど、やる気が出てきたのでよしとしよう。
デイホームも老人ホームも退屈とは困ったことだ。この老人ホームは規模が大きくて地元の人々との交流も盛んで、日々いろんな活動がある所をムスコが探してきたのだ。
ハハの言う「ここ」をハハが老人ホームと認識したかどうかは分からない。
とりあえず、今日は頭がハッキリしていた。色んな人に囲まれているのはいいのかもしれない。