ムスメの一時帰国6 泥棒は人殺しへ
ハハはまだチチの死を完全には理解していない。
葬儀を行ったことは全く覚えていないし、当然葬儀に誰が来てくれたかも覚えていない。
家の祭壇をみて、「お葬式はしたの?」「どこでしたの?」「誰が来たの?」とムスメにきく。ここまでくると、ムスメは地雷原を歩く気分になる。次の質問は当然
「お香典はいただいたの?」と「葬式にはいくらかかったの?」である。
ハハはお金に取り憑かれている。ムスコが盗むという妄想から抜け出せない。そこへ香典と葬式代の話になると、再びムスコへの不信感がドロドロと噴き出してくる。
ムスコがチチの年金をハハの目の前で盗んで逃げた上に、生活費を一銭もくれない。私は食べるものもない生活を強いられている。あの子は泥棒で、人殺しよ。
ああ、もう何も誰もハハの妄想を止められない。話は日に日に事実と現実から遠ざかっていく。ムスコは泥棒で、ついには人殺しになってしまった。