ムスメの一時帰国5 ハハ豹変する
それまでにこやかに話していたハハだったが、ムスコ家族が帰るとハハは豹変した。
表情が急に険しくなり、声のトーンは2オクターブほど上がり、早口になってまくし立てた。
ムスコが3日前に家に来ていてチチの今月分の年金を銀行通帳も一切合切持ち去ってしまった。私を苦しめるためにお金を一銭もくれない。食べるものも買えない、美容院にも行けない。お金がなくなることが心配で、この夏もクーラーもつけていない、とお金がないからどれだけ苦しんでいるかを滔々と述べ、
「あの子は泥棒よ」
「もうあの子は敵なの」
「もうあの子とは縁切りしたの」
と言い放った。
そして、何度も何度もその話を繰り返した。
チチの葬儀の日の夜のことだ。真面目な銀行員だったチチは家族がお金のことで言い争うのもとても嫌がっていた。それなのに、ハハの怒りと不安と混乱はもうムスメの理解を超えた所にしか存在しないようだった。
口は達者だが、話している内容はもう現実とは大きくかけ離れたハハの世界にしかない。
ムスメは否定する気も、ムスコの弁護をする気も、ハハの気持ちに寄り添うこともできなかった。