minnesotakkoの日記

国際遠距離介護の記録

ムスメの一時帰国9 ハハと運転免許

ハハが運転をしなくなって2年になる。免許停止になったまま出席すべき講習に出ていないのでそのままになっている。はずだとムスメは思っていた。

 

が、ハハとハハの妹(ムスメの叔母)が電話で話をしているのを聞いて急に不安になった。ハハは運転免許証を「役に立つから」と言われて女の人に上げた、と言っていたからだ。

 

何だそれ?誰だそれ?運転免許証を欲しいというなんてどこの誰?それって犯罪に悪用されたりしちゃうってこと?

 

焦ったムスメはムスコに電話をした。ムスコが説明は、ムスメの理解と同じだった。免停になったままで、免許は手元にない。

ハハと一緒にいると、ハハの話を四六時中聞くことになるので、何が事実で何が妄想なのか区別する自信がなくなってくる。

 

ムスメの一時帰国8 ハハと台所

ハハはもう料理をしなくなった。鍋を黒焦げにした前科があるので、ムスコがガスを止めて久しい。

 

主人を失った台所は薄汚れていた。食材は期限切れのものが散財している。丸大豆醤油になたね油、オリーブオイルにケチャップ、めんつゆに酢など生協の宅配でありとあらゆる食材を注文していた頃の遺産だ。

目に見えるところは掃除した形成はあるが、棚の埃はたまり放題、最後に掃除をしたのはムスメが半年前に帰国していた時だと思われた。しかも小さなが蛾が飛んでいた。

 

ムスメは病み上がりである。外出する元気はないが、1日中寝ているほどでもない。台所の掃除をすることにした。

棚はメチャクチャだった。使われなくなったレシピ本は埃だらけ、スーパーのレジ袋、マイバッグ、古新聞、エプロン、軍手、タオル類がゴチャゴチャになっている。

そこでムスメが対峙したのは、タオルにびっしりとついた虫だった。どうやら小さな蛾の幼虫らしい(ググってみたら繊維を食べるイガとかコイガとからしい)。ゾーッとしてタオルは処分した。バルサンをした。死んだのはゴキブリのみで、バルサンを焚いた後でも蛾はヒラヒラと飛んでいるし、幼虫も床を這っている。

 

あれだけ料理にこだわっていたのに、あれだけ食べることが好きだったのに、あれは義務感と責任感だったのだろうか?

 

主人を失った台所は虫に食われてしまうのだろうか。 

 

ムスメの一時帰国7 ムスメ胃腸をやられる

ムスメの胃腸が悲鳴を上げた。

酷暑に湿度、ストレス、時差ボケ、実家の片付け、事務手続き等々忙しすぎた。それに加えてハハの瘴気にやられたに違いない。チチが亡くなったことはやっと定着した。が、葬式をしたこと自体が定着していないので、毎朝パニックである。葬式はするの?葬式はどこでするの?誰を呼ぶの?そしてお金はあるの?という一連の質問攻めから1日がスタートする。デイホームから帰って来くれば、ムスコがお金を盗むからお金がない。ムスコが優しくしてくれない、ヨメがなってない、こんな思いするなら死んでやる、と2分ごとに聞かされるとこちらも気分が滅入る。

 

とうとうこの暑いのに発熱して、腹痛を抱え、トイレと布団の間をひたすら往復して2日間がすぎた。

 

 

 

ムスメの一時帰国7 ハハとゴミの分別

朝、玄関のベルが鳴ったので出て見たら、区の清掃局の調査員と名乗る男性が二人立っていた。手にはゴミ袋を下げている。そのゴミ袋の中にはハハの苗字がくっきりと書かれたハガキが入っていた。

 

調査員が説明するところによると、近所からクレームが出たという。ゴミの分別がされていないと清掃車が回収しないので、いつまでもゴミが放置されるしまうからである。

 

確かに我が家のゴミなのだ。ぐうの音も出ない。平謝りに謝った。

その日は可燃ゴミの日だったので、その場で分別した。可燃ゴミの中には大量の瓶が入っていた。ムスメが瓶だけを別の袋に入れていたものを、ハハが可燃ゴミの中に入れたのだった。

 

この家でハハが一人で暮らしていくにはゴミの分別は必須である。しかも、曜日の感覚が皆無のハハにとって、正しく分別されたゴミを正しい日に出す、というのはもはや小学生に微分積分を解けというようなものである。

 

どうしたものか。

ムスメの一時帰国6 泥棒は人殺しへ

ハハはまだチチの死を完全には理解していない。

葬儀を行ったことは全く覚えていないし、当然葬儀に誰が来てくれたかも覚えていない。

 

家の祭壇をみて、「お葬式はしたの?」「どこでしたの?」「誰が来たの?」とムスメにきく。ここまでくると、ムスメは地雷原を歩く気分になる。次の質問は当然

 

「お香典はいただいたの?」と「葬式にはいくらかかったの?」である。

 

ハハはお金に取り憑かれている。ムスコが盗むという妄想から抜け出せない。そこへ香典と葬式代の話になると、再びムスコへの不信感がドロドロと噴き出してくる。

 

ムスコがチチの年金をハハの目の前で盗んで逃げた上に、生活費を一銭もくれない。私は食べるものもない生活を強いられている。あの子は泥棒で、人殺しよ。

 

ああ、もう何も誰もハハの妄想を止められない。話は日に日に事実と現実から遠ざかっていく。ムスコは泥棒で、ついには人殺しになってしまった。

 

 

ムスメの一時帰国5 ハハ豹変する

それまでにこやかに話していたハハだったが、ムスコ家族が帰るとハハは豹変した。

 

表情が急に険しくなり、声のトーンは2オクターブほど上がり、早口になってまくし立てた。

ムスコが3日前に家に来ていてチチの今月分の年金を銀行通帳も一切合切持ち去ってしまった。私を苦しめるためにお金を一銭もくれない。食べるものも買えない、美容院にも行けない。お金がなくなることが心配で、この夏もクーラーもつけていない、とお金がないからどれだけ苦しんでいるかを滔々と述べ、

 

「あの子は泥棒よ」

「もうあの子は敵なの」

「もうあの子とは縁切りしたの」

 

と言い放った。

 

そして、何度も何度もその話を繰り返した。

 

チチの葬儀の日の夜のことだ。真面目な銀行員だったチチは家族がお金のことで言い争うのもとても嫌がっていた。それなのに、ハハの怒りと不安と混乱はもうムスメの理解を超えた所にしか存在しないようだった。

口は達者だが、話している内容はもう現実とは大きくかけ離れたハハの世界にしかない。

ムスメは否定する気も、ムスコの弁護をする気も、ハハの気持ちに寄り添うこともできなかった。

 

ムスメの一時帰国4 母とチチの葬儀

7月31日はチチの葬儀だった。

 

家に祭壇が設置されたからだろう。ハハの質問は「パパは死んだの?」から「パパはいつ死んだの?」に変わっていた。

 

礼服があるのか、誰に葬儀のことを知らせたのか、誰が参列するのか、お金はあるのか、と何度も何度も聞かれた。

 

チチの兄弟に会えてハハははしゃいでいた。チチが穏やかに亡くなったと言ったかと思えば、苦しんで死んだと言ってみたり、話しは破茶滅茶だったが、それ聞く面々も上は御歳85歳である。否定せず聞いてくれていた。

 

葬儀が終わり、身内で精進落としをして帰宅した。ムスコが車で自宅まで送ってくれた。遺骨や位牌を祭壇に設置して、花を飾ったり、昔のアルバムを見てご機嫌に過ごしていたが、ムスコ家族が帰った途端、ハハは豹変した。