ムスコの提案
東京の家もなかなか快適だし、色々やることもあるし、友達もいるし、とアメリカ行きをポジティブに諦めたハハだったが、寂しさには耐えられないのだという。
孫には会えず、ムスメはアメリカ、昔仲の良かった友達は離れていってしまい、身体はいうことを聞かず、頭もぱっとしない。一人で食べるのは美味しくないから最近全然食べてないし、もう何のために生きてるのか分からないわ。
とムスコにこぼしたらしい。
そこでムスコは、激務の間に策を練ったのだろう。
チチを自宅に戻すのはどうかと提案してきた。ヘルパーを最大限に利用すれば、自宅介護が可能なはずだ、そうすればハハもしっかりしてくれるだろう、と思うんだけど、と。
いやいや、それは無理でしょう。要介護5だよ。全介護だよ。自宅介護できなくなったから老人ホーム探したんだよ。5年前にできなかったことが、今できるわけがないんだよ。しっかり現実見てくれよ。
とは言えなかったが、ムスコが困っているのは、よーく分かった。18歳で家を出てから数々のやんちゃをしでかしたムスコももう不惑を越えて、親孝行したいと思っているのだろう。
ハハ、アメリカ行きを諦める
何度も話した結果、今回のアメリカ行きは中止となった。
一人で行ってもつまらない。一緒に行ってくれる人がいない。
というのが最も大きな理由だろうか。
来年の夏には認知症がどうなっているのか分からないので、今年無理してでも連れてきたほうがよかったのではないかと後悔したり、いやいやハハの意志を尊重したんだからこれで良かったのだと思い直したりとムスメは休まるところがない。
ハハ、アメリカ行きを躊躇する
ハハはアメリカ行きを躊躇している。
言葉もできないし、行ってもすることないし、遠いしと言う。
でも、孫が一緒に来たいというのだったら、考えてみてもいい、と言う。
今年中学生になった孫が英語に興味を持っているらしい。
孫に通訳をさせるつもりはないのだろうが、渡米をきっかけに孫と一緒に過ごしたいのだろう。
ムスコは仕事が、最近の中学生も部活だ塾だと忙しいらしい。
ハハの願いは叶いそうにない。
ハハ、アメリカに行く?
ムスメはハハがアメリカに来たいことを知っている。
ハハが夏をアメリカで過ごしたほうがいいのではないかと思っている。
東京に比べてミネソタの夏は天国だ。気温も湿度も低くて快適なのだ。
美味しい日本食料理屋はないとしても、食材は何とかなるので、食事も大丈夫だろう。
しかし問題は山積みだ。
直行便でも11時間以上あるフライトに耐えられるかどうか。
ここはミネソタの片田舎だ。何もない田舎生活を楽しめるかどうか。
日本語でも英語でも空港のセキュリティー、税関、出入国管理が一人でこなせるかどうか。
英語ができないので、ムスメが付きっ切りで通訳しなければならない。ずっと離れて暮らしてきたのに母子ともに耐えられるのだろうか。
等などと考え出したら止まらない。
渡米中にチチに万が一のことがあった場合に、ハハは後悔しないだろうか?
だから来ないほうがいいと思うが、
今年を逃したら、来年はもう無理なのではないか?
だから一度来てほしいとも思う。
一方で、お互い無理せず、ムスメが帰国すれば楽だというのがムスコの意見。
ムスメが一時帰国してハハを連れて来るという手段も可能だというのがムスメの従姉妹の意見。
どうなるにしても、ムスメは迷う。
ハハ、夜間救急へ行く
電話をしたら、元気そうな声だったが、右脇腹が痛くて眠れなくて夜間救急に行ってきたのよ、と言った。
驚いたムスメは、救急車は呼ばなかったの?と聞いた。
サイレン鳴らしてくるとご近所に迷惑かなと思って自転車で行って来たと言う。
自転車に乗れるんだったら大したことなかったんだろう、とムスメは安心した。
案の定、一軒目の病院では宿直医が耳鼻科で専門外、色々検査はしたが結果良好すぎて原因が特定できず、2軒目の病院まで自転車で行き内科医に診察してもらったが、ここでも原因が分からずじまいだったそうだ。痛みはまだあるが、おさまっているという。
胆嚢も盲腸もないので、医者も首をかしげていたという。
まあ、自転車に乗れるくらいなら心配はないのだが、翌朝まで待てなかったのは不安が強いのだろう。
ムスコには病院に行く前に電話したそうだ。帰宅したら家で待っていたという。
大事でなくてまずは一安心。